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ダブリン市民

書誌

authorジョイス
editor安藤一郎(訳)
publisher新潮文庫
year1953
price320
isbn10-209201-3

目次

1感想
2抄録

履歴

editor唯野
2001.1.16読了
2001.1.29公開
2001.2.5修正

表題が示す通り、ダブリンで生活する人々が主人公という点において共通項を持った短篇集。ジェームス・ジョイス(もちろんアイルランド生まれ)を読むのはこれが初めてだが、全体的にいって淡々と生活者の日常を描きつつも、それを少し意外性のあるペーソスな展開でまとめているという感じだった。

個人的に印象に残ったのは若者の失恋を扱う「アラビー」とトリを飾る「死せる人々」で、いずれも物語の後半部分の描写で惹かれたように思う。特に「死せる人々」での、妻が別の男のことを語ったことに憤っていた夫がやがて別の落としどころに落ち着くという下りがよかった。解説によるとジョイスはダブリン市民の生活全体を覆う無気力(麻痺)を描いたのだという。そういわれてみると納得できるというか、私自身も何かの落としどころを得たような気持ちになった。

抄録

296-297

部屋の空気がぞくぞく肩にしみた。彼はふとんの下で用心ぶかく体を伸ばして、妻のわきに横たわった。一人ひとり、みな亡霊になっていく。年齢とともに、みじめに褪せ衰えていくよりは、何か熱情のまばゆい陶酔にみちて、敢然と彼岸の世界へおもむくほうがましなのだ。彼は、横にねている妻が、そんなにも長い年月のあいだ、生きたいとは思わないと言ったときの恋人の眼の面影を、胸にしっかり秘めてきたいじらしさに、思いをいたすのであった。

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