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魯迅文集 (全6巻)

書誌

author魯迅
editor竹内好(訳)
publisherちくま文庫
year1991
price1000 (1巻)
isbn4-480-02551-0 (1巻)

履歴

editor唯野
2010.10.12読了
2010.10.13公開
2010.10.20修正

本来は全7巻の予定だったものだが訳者の死去により全6巻となっているものである。ちなみに7巻は本来では『両地書』の訳出の予定だったという。この文集の特徴は竹内好個人訳の選集になっている点と、小説以外の評論の類を時系列に沿って幅広く収録している点にあると思う。(実際、3巻以降は全て評論である。)有名な「水に落ちた犬を打て」という『「フェアプレイ」はまだ早い』など十分な読み応えがある。

魯迅自身がその活動全体からいって小説よりも翻訳や評論の方が多いというのは、著者の生きた時代背景もあったかと思うが、その筆の鋭さにはびっくりさせられる箇所が少なくない。私が特に驚いたのは物事の要点を短い言葉にまとめあげてしまう点だった。相応の洞察力なしにこんなことはできるわけがないので、それだけ物事の付き詰め方が徹底していたということなのではないかという気がする。魯迅は圧倒的に小説が有名であるけれども、この文集は良くまとまっていると思う。

抄録(1巻)

13-14

-/-愚弱な国民は、たとい体格がよく、どんなに頑強であっても、せいぜいくだらぬ見せしめの材料と、その見物人になるだけだ。病気したり死んだりする人間がたとい多かろうと、そんなことは不幸とまではいえぬのだ。むしろわれわれの最初に果すべき任務は、かれらの精神を改造することだ。そして、精神の改造に役立つものといえば、当時の私の考えでは、むろん文芸が第一だった。-/-

14 cf.17

私が、これまで経験したことのない味気なさを感ずるようになったのは、それから後のことである。はじめは、なぜそうなのかわからなかった。後になって考えたことは、すべて提唱というものは、賛成されれば前進をうながすし、反対されれば奮闘をうながすのである。ところが、見知らぬ人々の間で叫んでみても、相手に反応がない場合、賛成でもなければ反対でもない場合、あたかも涯しれぬ荒野にたったひとりで立っているようなもので、身のおきどころがない。これは何と悲しいことであろう。そこで私は、自分の感じたものを寂莫と名づけた。

63

かの女は立ちあがって、灯をつけた。部屋はますますひっそりとして見える。手さぐりで戸を締めに行き、もどってベッドのふちに腰をおろした。糸車はひっそり足もとにある。気をしずめて、あたりを見まわした。いよいよ居ても立ってもいられぬ気がしてくる。部屋はいやにひっそりしているだけでなく、いやに大きくなり、なかの道具がいやにがらんとしてしまった。いやに大きい部屋が四方からかの女をとり囲み、いやにがらんとしてしまった道具が四方からかの女を抑えつけて、息するのも苦しい。

『吶喊』の「明日」より

68

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