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ブックス・ビューティフル (全2冊)

書誌

author荒俣宏
publisherちくま文庫
year1995
price1300
isbn4-480-030096-4 (I巻)

履歴

editor唯野
2018.12.3読了
2019.2.公開

本書の立ち位置についてはII巻の冒頭で著者自身が以下のように述べている通りである(p11-12)。

実をいいますと、いま述べたような挿絵本への関心の広まり方は、筆者自身が体験したそれとも一致しています。-/-

したがって本書は、いわば筆者にとっての挿絵本史総まとめをめざした書物といってよろしいでしょう。テーマを文芸作品に付された挿絵に限定しましたけれど、その理由は、博物図鑑史について拙著『新編 図鑑の博物史』(集英社)、また銅版画の歴史に関しても『図像観光』(朝日新聞社)を刊行していますので、残るは本書に集めたような文芸的挿絵を一冊にまとめるだけだ、と思えたからです。

というわけで類書の『図鑑の博物誌』も大変好著だが、こちらは書物の「挿絵」をその技術史と合わせて、実際に著者が蔵する書籍と合わせて紹介した本となっている。私もそうだが戦後のオフセット印刷による書物しか知らない人間には、手彩色かつ装幀も分業で、蔵書家が自分で好みの装幀もしていた――という時代は想像の範疇でしかないが、その上わずか100年くらい前まではそういう技術が存続していた――という事実には更に驚かされる。

あまりにも著名なギュスターヴ・ドレの挿絵などは邦訳書にも引用されている通りだが、挿絵本黄金期を代表する書物の数々は確かに蔵書狂(ビブリオマニア)を惹きつけるだけの美しさがある。『図鑑の博物誌』もそうだが、人間の想像力を技術的制約の中で絵画として表現しようとした極致から傑作の生まれてくるのが特におもしろい。惜しむらくは本書が原著の大きさではなく文庫版であるところだろうか。一枚でもよかったので原寸を見てみたかった。

抄録 I

8-12

-/-けれども、その関心事が、実際にみごとな本づくりに結実する時代となると、いくつかの条件が必要になります。まず、完璧をきわめることだけに心をくだく職人と、新しいイメージを追いもとめずにいられないアーティストがいること。そして何よりも、時代が美しいものを愛する気風にあること。以上のような条件を満たした稀有な時代のひとつが、

アールヌーヴォーの時代

でした。アールヌーヴォーすなわち「新しい美術」とは、一九世紀末から二〇世紀初頭のヨーロッパにあらわれた美術・民芸・装飾をさしています。アールヌーヴォーがフランス語なのは、ジークフリート・ビングというドイツ人が一八八五年にパリで開いた美術工芸の店「アールヌーヴォー・ビング」に端を発するから、といわれています。しかし、当時のパリは何といってもファッションとアートの世界的中心地であり、新しい美術のトレンドはどのみちこの国語で呼ばれることにはなったにちがいありません。

このアールヌーヴォーには、三つの柱がありました。

ひとつが東方趣味。-/-いよいよ日本の美術様式に関心が向かいはじめていました。

そして次の柱が、この日本の美術様式の特徴でもあったグラフィックな装飾様式。-/-それまでのヨーロッパ美術を支配してきた三次元的リアリズムあるいは彫刻の美学にかわって、平面的で大胆で、絵の自由さを手本にした現実を大きく越える表現を意味しています。-/-

そして第三の柱は、アールヌーヴォーがいわゆる美術館ものでなく、複製がたくさんとれる美術工芸品で、ふつうの人にも買える商品であった、という点です。-/-

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