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だれが「本」を殺すのか (全2冊)

書誌

author佐野眞一
publisher新潮文庫
yearH16
price667+tax (上巻)
isbn4-10-131635-X (上巻)

履歴

editor
2007.7.11読了
2010.5.14公開
2010.5.14修正

本の「今」をめぐる状況を書店だけでなく、版元や読者までという上流から下流までの全体から追ったルポルタージュ的な本。従来、この種の本というのは、とかく書店サイドからのものが多く、出版不況が恒常化する中で、状況を全体から俯瞰したこの本は、その過激なタイトルも含めて、それなりの意義があったと思う。

ただ、米国でのKindleやiPadなどによる電子書籍がいよいよ本格化しつつある現在では、状況は本書の執筆された頃よりも更に悪い。特に日本では本書でも取り上げられており必ず議論になる再販制・取次・著作権管理の壁があまりにも大きくて、電子書籍の世界でもガラパゴス化が必至といってもおかしくない。

少し前に池田信夫のblogで書かれていたことだが、確かに日本のモノ作り(クリエイター的なものも含む)では、肝心の作り手よりも最後の販売業者もしくはメディアが最も利益を享受しているといういびつな構造がある。例えば本であれば著者の印税など出版社の利益に比べれば話にならないし、これは映像や建築などでも同様である。電子書籍は同人の世界が同人ではなく一般になる可能性を秘めており、それは以前にも書いたように、それこそがPCのもたらす個人の自由の拡大である。つまり、多数の共同作業でなければできなかったたものが、どんどん少人数、個人でもできるようになってきており、デジタル化というのは個人に対してみると、まさにそれを促進している。

「本」は「マス」に対して提供される典型的なメディアとして長く君臨してきたわけであるが、それさえもがわずかの期間で変わろうとしている。むろん、「本」というものが、そう簡単になくならないだろうことも自明ではあるが、今の日本の書籍販売の流れに関していえば確実に「死」が近付いているのは疑いようがない。

抄録(上巻)

11 cf.143/268 下78/248

取次は未曽有の出版不況を理由にして、版元からの引き受け部数を削る。配本部数を減らされた版元は初版部数を絞る。そして初版部数のマイナス分を出版点数の増加で何とかしのごうとする。

売り上げが七年連続でダウンしているにもかかわらず、新刊点数だけは伸びつづけるという摩訶不思議さは、出版界全体が縮小均衡の自転車操業ともいえるこうした最悪のサイクルに入ってしまったことに起因している。この明らかにアンバランスな需給関係は、当然、返本率の増大となってはねかえっている。、

14 cf.下252

それだけではない。新書ラッシュは、近年著しく売り上げが落ちている雑誌の凋落傾向にも拍車をかけている。各社の新書のラインナップを見ると、かつての啓蒙色は影をひそめ、どの版元の企画も雑誌の目次のような時宜性に富んだ内容か、簡便な実用書に近いつくりとなっていることがわかる。

16/20 cf.316

それは、小まめな外商活動をつづけ、雑誌の定期購読者などの読者層を確実につかんできた堅実な書店が、大型店の蹂躙や万引きの多発などで廃業に追い込まれる「書店の死」と、これにともなう「雑誌の死」への流れである。

また、ベストセラーとしか本との接点をもたず、未来の読者につながるとは思えない層が台頭する「読者の死」と「読む力」のない層しか相手にできない「著者の死」ともいうべき風潮である。

さらには、自分が欲しい本を書店で買い求め、それを手元にとって置く従来の読書家タイプにとってかわり、??無料貸本屋?≠ニいう批判が相次ぐ図書館のヘビーユーザーや、ブックオフなどの新古本屋、マンガ喫茶などを??格安の貸本屋?≠ニ見なす人びとのふるまいに象徴される「蔵書の死」の傾向である。

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