ホーム > 読んだ >

椅子と日本人のからだ

書誌

author矢田部英正
publisher晶文社
year2004
price1800+tax
isbn4-7949-6596-6

目次

1感想
2抄録

履歴

editor唯野
2007.10.1読了
2016.10.19公開
2016.10.26修正

日本と諸外国における文化的な背景を含めた座り方の違いを出発点として「本当の日本人に合った椅子とは何か」ということを考察した本。椅子というものは名作と呼ばれるものから新しい素材によるものまで含めて非常にデザインや種類も多岐にわたるわけですが、坐る方の人間の側が体格・シチュエーションなどによって千差万別であるため、服と一緒で「これ」という決定解はないというのが難しく、それゆえに種類が多岐にわたる所以なのだと思います。

読んでいると、ところどころではっとさせられる箇所があり、椅子に限定されない読み物としてもおもしろいのですが、かといって著者自身による試行錯誤も紹介されているものの、やはりそれが椅子に対する決定的な答えかというと、そうとも限らないというのが難しいところです。個人的にはアーロンチェア以降のオフィスチェアは各部を可動式として個人に合わせて各所を調整できるようにしたところが画期的であり、そういう調整箇所が著者の指摘するような坐り方の文化の違いまで吸収できるとベストなのか ?――と考えたりもするわけですが、そういう椅子が登場していないということは、そんな簡単な話でもないというのが実情なのでしょう。

そのためタイトルとしては椅子とありますが「坐」の本という方が適切だと思える一冊です。

抄録

13

パリやミラノ、北欧などのサロン(家具見本市)でも、日本のインテリア誌の注目の的は、花形デザイナーの新作や、新素材、新機能といった、莫大な経済効果を生み出しそうな技術にばかり向いていて、<身体に訴えかけてくる心地よさ>の方向には、ほとんど目が向けられていないように思う。その一方で、筆者の宿泊した安ホテルや、現地の知人友人宅のなかに、おどろくほど「心地よい椅子」の多かったことが率直な印象として残っている。

14 cf.23

どういうことかというと、現在、日本には腰痛・肩こりの症状を持つ人が人口の八割を超えていると言われている。にもかかわらず、工学や生理学の専門家のなかには「椅子と姿勢の研究については既にやり尽くされている」などと考えている人々が少なくなく、ここ二十年の間、これといって研究成果も上がらないまま、同じようなことを焼き直して、学習椅子の基準をつくっていたり、商品カタログに箔をつけたり、などというようなことをくり返しているのである。

15 cf.196

研究を進めていくうちに、フランスの社会科学を構成する一領域に、「身体の使い方」を中心とした技術文化の研究があることを知った。「身体技法」と言われるこの分野は、二十世紀初頭にマルセル・モースがはじめて指摘して以来、百年来の伝統がある。人間の姿勢や動作の特徴は、単に個人的なものではなく、社会全体として共通する集合的な性質があり、その習慣的かつ伝統的な流儀にしたがった「身体の使い方」のことをモースは「身体技法(technique du corps)」と名づけた。

全文を読まれる場合はログインしてください


Up