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カヌー・エッセイ・ベスト
川へふたたび

書誌

author野田知佑
publisher小学館文庫
year1998
price571+tax
isbn9-411022-4

目次

1感想
2抄録

履歴

editor唯野
2000.11.13読了
2000.11.26公開
2002.4.9修正

野田知佑の主に初期のエッセイを集めたもの。出世作ともいえる『日本の川を旅する』はもちろんのこと、内容的にはいくつかの川ごとに章立てされた構成になっている。具体的に取り上げられているのは、釧路川・長良川・四万十川・吉野川・球磨川だが、時間的に新しくなればなるほど、川への讃歌から川が駄目になっていく様の描写へと移り変わっていくのはどれも同じだ。読めば読むほどに、今日の日本において、この例外を探すことの難しさがよく分かる。エッセイだからといってお気楽に読めばよいという本でないのが、読み進めるほどに分かる内容ともいえるだろう。確かに著者の本を読んだことのない人にとっては格好の一冊となっている。

ちなみに個人的に通読して感じたのは、意外と著者の過去の描写が出てくるところについてである。考えてみれば 『新・放浪記』 を読むまで、著者のそういうところヘ関心を持つことがなかったため、一度は読んでいるはずなのに、ちっともそういう記述のあったことに対する記憶がないのだ。そんなわけで、ここから導き出される教訓は「結局のところ、読書も関心のない記述は読み手によって忘れ去られる」ということである。

抄録

16

屈斜路湖は死の湖である。

昭和十三年の屈斜路地震の時、湖底のあちこちで硫黄が噴出し、それまで淡水魚の宝庫だった湖は強酸性の水に変わり、魚類は全滅した。

25

牛乳もこのところ過剰気味で「生産調整」をしている。農協から集乳に来ても各戸に割り当てた量しか持っていかない。残った牛乳には密売しないように「食紅」が投げこまれる。真っ赤な牛乳の入ったタンクが小屋にいくつも並んでいた。

「これどうするんですか ?」

「牛に飲ませるしかないな。味も成分も全然変わらんのだけど、その色じゃどうしょうもない。持っていくならいくらでもやるよ。」

初めて読んだときから記憶に残っている箇所。白い牛乳を赤くすることで商品でなくしてしまうというのに驚いたからである。

30

日本のインテリは「荒野」「曠野」などの言葉を好んで使い、これを口にする時、涙を流して喜ぶ癖(へき)があるが、現実の「荒野」とは、まず第一に大変カユイ所である。

51-52

今年「釧路湿原」が国立公園に指定されて安心してしまった人が多い。しかしこの「湿原」をつくっている釧路川が年々、川の水量が減り、湿原全体が乾いている実情を知っている人は少ない。流域の木々を切り、上流、中流の沼地、湿地を乾燥させているからだ。「美しい釧路湿原」のポスター、写真、記録映画を見る度に、ぼくは腹が立つ。それは写真によるごまかしであって、決して、釧路川の実情ではないからだ。

56

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