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信長燃ゆ (全2冊)

書誌

author阿部龍太郎
publisher新潮文庫
year2005
price667+tax
isbn4-10-130516-1 (上巻)

履歴

editor唯野
2013.5.19読了
2013.6.30公開
2013.12.14修正

著者の名前は高校時代の恩師に勧められて知ったのだが、なかなか読む機会が得られなかった。とはいえ、何だか直木賞も受賞したようなのでデビュー作である『血の日本史』と本作とを合わせて読んでみた。本作は信長暗殺を光秀や秀吉というよりも、当時の朝廷側によって謀られたものとして描いたものである。また、そこへ勘修寺晴子(東宮夫人)と信長という禁断のロマンスを緯糸として織り成している。

一読しての感想となると、おもしろかったのは『血の日本史』の方だった。これは敗者による日本通史というべき本で、個々の人を独立して取り上げながらも、それを古代から現代まで一堂に集めたところに意義のある本??という感じだった。歴史というものが勝者によるものだということはよく言われるが、敗者の側にも様々な生き様、事情がある。単なる奇人であったのかもしれぬし、本人の意図とは関係ない運命の奔流に流されたのかもしれぬし、負けると分かっていて動いた場合もありえる。その当人の心情を物語としてどう描くかは作家次第なのだろうが、では信長の場合はどうだったのか ?

そう考えてみると『信長燃ゆ』はどちらかというと時代小説にロマンスを求める人向きだろう。名家の姫君に執心した秀吉は有名だが、信長というと新しい物を斬新に取り入れながら旧来の習俗にはこだわらなかった秩序破壊者??というイメージが強く、逆にいうと結婚といえば政略結婚であり、あまりロマンスとは縁のなさそうなイメージがある。恐らく、本書の場合、そこに東宮夫人との恋を持ち込むことで、その落差をおもしろいと思えるかどうか、なのだと思う。

だから、言い方を変えると近衛前久が恵林寺焼き討ちによって信長暗殺を決意する下りも、それ以前の信長の所業を考えれば「このタイミングなのか ?」という感がある。物語も軸になる人物が複数あるため、第三者である「たわけの清麿」による著述という形式であり、(これは著者の意図なのだろうけれども)言いようによっては当事者性が薄い。まあ、単に私が乱世には権謀術数なものを期待しすぎるだけなのかもしれないが...

主要登場人物

織田信長乱世をほぼ統一しつつある覇者 cf.上46/下294
近衛前久(さきひさ)五摂家筆頭近衛家当主、信長とは敵味方双方の関係にある cf.下271-272/279
たわけの清麿本書の著者として登場する元信長の近習
坊丸同じく信長の元近習で信長の墓を守っている
近衛信基(のぶもと)前久の息子で信長に心酔している
矢代勝介の娘。信基が惚れるが...
勘修寺晴子東宮(皇太子)夫人 cf.上294
風の甚助伊賀の忍者、信長の命をを狙うが... cf.上380

抄録(上巻)

11/12/13

-/-信長公の墓所といえば大徳寺の?ハ見院(そうけんいん)や移築された本能寺にあると信じている人が多いようだが、阿弥陀寺こそ真の墓所なのである。

ところがこの遺骨を巡って、秀吉公との間で争いが起こった。

山崎の合戦で明智光秀を滅ぼされた秀吉公は、信長公の葬儀を阿弥陀寺で行おうとなされたが、清玉上人は頑としてこれをこばまれた。

そこで大徳寺に?ハ見院を建立され、信長公の遺品ばかりを集めて十月五日に人目を驚かすほど盛大な葬儀を行われた。

その上?ハ見院を信長公の正式な墓所と定められ、諸大名や家臣ばかりか織田一門にまで阿弥陀寺への参詣を禁じられたので、阿弥陀寺は次第に没落し、人々からその存在を忘れ去られたのである。

63

こいつらは自分の頭でものを考えていない。まわりから教え込まれたことを、鸚鵡の口真似のようにくり返しているにすぎないのだ。

しかも自分でそのことに気付いていないところに、雛鳥のごとき危うさがあった。

77

それゆえ地上の掟に反逆しようとする者は、ひとしく覆面をかぶったのだ。盗人しかり、一揆を起こす者しかりである。

こうしたことまで勘案してみると、信長が家臣全員に覆面をさせたことには重大な意味がある。

端的に言えば、「此の世ならざる身となって余に仕えよ」ということだ。

人がこの世の掟を超えて仕える対象はただひとつしかない。神仏である。

信長は家臣全員に覆面をさせることによって、己れ自身が神仏と化したと宣言したのだ。

あるいは神仏と化すという強い決意を表明したと言ってもいい。

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