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黄金を抱いて翔ベ

書誌

author高村薫
publisher新潮文庫
year1994
price520
isbn10-134711-5

履歴

editor唯野
2000.6.17読了
2000.6.18公開
2000.6.24修正

痛快無比。抜群におもしろいです。久しぶりにこの手の夢中になる本と著者に出会いました。情緒に流されない展開のスピート感と克明なディティールのある描写、社会の裏側を主題にした豊饒なイメージと...読み出した手が止まりませんでした。早速、著者の文庫本を新刊書店で(新刊書店なのが私にとっては重大事なのです :-P))まとめ買いしてしまったほどです。

本書は日本推理サスペンス大賞を受賞して著者の名を一躍世に知らしめた一作でもありますが、私なりに思うにハードボイルドのような気取りもなければ、淡々と、しかし細部には具体的なところに、一番のおもしろさの秘密があるように思います。それでいて小説としての言い回しひとつを取ってみても、はっとさせられるというか「うまいな」と感じざるを得ないところが多々あり、全くもって著者の力量には驚かされました。ひとつ難をいえば、展開に急ぎすぎると思われる場面がいくつかあって、何が起こったのか項を遡ることが何度があった点です。しかし、冗長な説明よりも疾走感の方が、この作品には似合っているし、それが正しいのでしょう。

あらすじは、銀行の地下に眠る金塊を強奪するために 6 人の男たちが出会い、そして計画を立て実行していくというものです。もちろん、裏切りや土壇場でのアクシデント、肉親をめぐるトラブル、仲間の死、主人公たちの葛藤??と、この手の要素で欠けているものはありません。また、舞台が大阪というのもよかったです。大阪らしく派手にやろうといって、変電所ごと電気を落とそうという計画の派手さが、描写の緻密さとの対比において、いい味を出しているようにも思いました。解説にもある「秩序への反逆」という精神が読み手にとっても、とてもスリリングです。とにかくこの本は外れなしと断言しましょう :-)

主要登場人物

幸田 実質的な主人公。北川の片腕として計画に加わる cf.271, 277, 298, 336
北川 計画の立案者にしてリーダー。常に抜かりがない。妻子持ち cf.281
野田 銀行に出入りして内部の事情に精通している男
ジイちゃん 銀行のエレベータ・サービスのベテラン。<!--警察につながりがある--> cf.346<!--実は幸田の父だった神父-->
モモ 宗隆生。爆薬に詳しく<北>とのつながりがある cf.245, 299
春樹 北川の弟。吹田連合(暴走族)のボスであるサク(索光延)と敵対している cf.281

国島/ミエちゃん 野田とつながりのある男女<!--いずれも死んでしまう-->
山岸 青銅社の人間。かつて幸田と関係があった
末永 公安によって転向させられた男。山岸との絡みで登場する

抄録

109

計画の発起式。

120

-/-困難は困難として、可能性は可能性として、疑問は疑問として-/-

347

ふと、《自由だ》と思った。これまで、同じようにしてビルの屋根から逃げたことは何度かあったが、自由の気分を味わったのは初めてだった。自由であり、少し孤独だった。《人間のいない土地》はもう、どうでもよかった。人間のいる土地で、自由だと感じるのなら。

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