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コンピュータ用語の哲学
ラジカルなコンピュータ用語辞典 第 3 版

書誌

author岩谷宏
publisherソフトバンク
year2002
price2400+tax
isbn7973-1887-2

目次

1感想

履歴

editor唯野
?読了
2002.7.29公開
2002.8.20修正

副題を見れば分かるようにコンピュータ用語辞典の本である。が、この本は少し毛色が変わっていて、コンピュータ用語の意味を単に列挙するのではなく、そのコンピュータ用語の元となった英単語の持つ意味まで遡った解説をしている点が大きな違いとなっている。具体例として適当に抜き出してみると、

低レベル(low lebel)

日本語で低レベルとか低級というと、どうしても価値評価やランク付けの語感が伴うから、厄介だ。

コンピュータ用語としての「低レベル(low level)」は、低級でもお粗末でもないのであります。そもそも、level とは物理的な階層を言い表す言葉であり、地位や価値を表す rank とは違います。

云々という具合。これは私自身も最近痛感することのひとつなのだが、コンピュータ用語を理解する際に、変に日本語に置き換えてもかえって理解しずらい場合というのが少なくない。例えば「FTP」という言葉でも、これを詳しくない人に対して「インターネットの代表的なサービスのひとつで...」と説明することも可能は可能だが、それよりは「File Transfer Protocol の略」といってしまった方が早い気がするのである。実をいうと、私が自分自身に対して「もっと英語を理解せねば」と思うのは、こういう経験に負うところが大きい。

ゆえに、本書の著者がいうように、よく年配の方などのいう「コンピュータは難しい」は、これもコンピュータそのものが難しいというよりはコンピュータの背後に存在する英語の持つメタファが分からない??というべきだと私も思う。これも例を挙げれば「セマフォ(semaphore)」と聞いても知らない人には全く分からないだろうが、元の英単語が「鉄道の手旗信号」のことなのだと知ってさえいれば、そのメタファとしての「同時にひとつしか利用できない」より「コンピュータの(同時にひとつしか利用できない)リソース制御のための何か」という類推が可能になる。つまり、「コンピュータ用語の意味が分からない」という場合、英語圏の人と日本人では、そもそもの見えている次元が異なるということである。

ところが、現実には「コンピュータ用語辞典」と銘打った本の多くは「コンピュータ用語を用いたコンピュータ用語を既に分かっている人の書いたコンピュータ用語辞典」であって、実はある程度の素養がないと辞典さえ読めないという印象が私にはある。これは、私自身が文系出身プログラマで、情報科学をきちんと学んだことのないところに根差す正直な感想である。だから、私も以前には「分散システム」「メタデータ」などという言葉では苦労した。なまじ、日本語での意味に引きずられて入ろうとするから、(特にそれが独学に近いような場合)かえって理解に時間を要するのである。

その点、著者は訳者として数々の専門書の翻訳を手がけてきただけのことはあり、そういったニュアンスであるとかメタファの有無のもたらす違いに対して、より敏感な立場にあったということになる。むろん、だからといって「じゃあ、この本さえあれば、コンピュータの全くの初心者でも言葉で困ることはない」とはいわない。この本もどちらかといえば主な想定する読者はプログラマであり、C/C++/Java といったプログラミング言語の理解などがないと読み進める上で苦しい部分があるためである。

しかし、コンピュータが一般社会に広がり、かつてのように「専門家/おたくだけが知っていればよい」という時代ではなくなった昨今では、コンピュータ用語に対するこのようなアプローチはもっと広がるべきではないかと思う。というのも、結局のところコンピュータ用語といえども、その言語とその言語が背後に持つ文化の影響から逃れることはできないからだ。

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