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リヴィエラを撃て (全2冊)

書誌

author高村薫
publisher新潮文庫
year1997
price705+\590+tax
isbn10-134714-X

履歴

editor唯野
2000.6.25読了
2000.6.25公開
2001.1.21修正

めくるめく謀略と駆け引きの一大絵巻。おかげで登場人物も多く整理するだけで大変である :-) しかし、それさえ乗り越えられれば後は物語の世界にどっぷりと浸かれることは間違いない。英米中日の多国間をゆるがしかねない《リヴィエラ》とは何者なのか ? 各国の諜報機関がそのためにしのぎを削るこの物語は、通り一辺倒のスパイ小説でもなければ単なるミステリーでもない。なぜなら、あくまでも主題となるのは「組織」というものを離れた意思を持とうとする人間の姿にあるからである。多くの登場人物たちがそのために命を落としていく中で謎は徐々に解明されていき...そして死者たちの意思が乗り移ったかのように残ったものたちが、それを受け継いでいく...とでもいうべきスケールの大きな話になっている。

実は元をたどると、この作品は著者の書いた初めての小説として日本推理サスペンス大賞(1989)の最終選考に残ったものである。(ちなみに、そのときの大賞が宮部みゆきの『魔術はささやく』だった。)当時のタイトルは『リヴィエラ』といい、この文庫は、それをベースとして改稿されているものだ。解説によると、アイルランドを舞台としノーマン・シンクレアが登場したりする部分での共通点はあるものの、両者はほとんど別物といってよい作品になっているという。確かに文章の洗練度からいえば、『黄金を抱いて翔べ』 などよりも隙はない。即ち、それだけエンタテイメントとしての完成度も増しているということなのだろう。これだけの重厚な小説を楽しむ読者の側としては大変にありがたいことである。

主要登場人物

ジャック・モーガン
 北アイルランド出身。元 IRA のテロリスト。父を殺したリヴィエラを追う。
 cf. 上 175, 342 下 221

イアン・パトリック・モーガン
 ジャックの父。IRA のテロリスト。ある人物<!--リーアンの父-->を暗殺した結果として 81 年に殺される。
<!--そのときの仲間がボブ・ヘガティとトミー・ファロンで彼らをモーガンとケリーがギリアムを誘い出すために殺す-->
 cf. 上 65, 130, 194 下 172

ウー・リーアン
 ジャックの恋人。モーガンと共に東京で暗殺される。
 cf. 下 220

ウー・リャン
 リーアンの父。72 年に中国より政治亡命。78 年にジャックの父によって殺される。

ゲイル・シーモア
 IRA ベルファスト司令部参謀本部長。
 cf. 上 122-126, 181, 245-246

ジェームズ・オファーリー
 ロンドン在住のジャックの伯父。この頃にモーガンはシンクレアを知る。
 cf. 上 112, 150

サー・ノーマン・シンクレア
 世界的ピアニスト。ダーラム候と親交がある。MI6 の情報員。
<!--ギリアムを殺して自分も殺される。-->
 cf. 上 310, 391, 396-397, 402, 445, 下 310

ダーラム候エードリアン・ヘアフィールド
 シンクレアのマネージャーも務める友人。MI6 情報員。
<!--コードネーム《フィリス》。リヴィエラと接触したことで自殺に追い込まれる-->
  cf. 上 29 下 25, 223, 240, 288, 345

レディ・アン・フィールド
 恵安。ダーラム公爵夫人。中国スパイ。
 cf. 上 425 下 23, 291-297

キム・バーキン
 MI5 職員。元警官。M・G の後を継ぐ。
 cf. 上 46, 314-135 下 125-130, 165, 245-257, 325, 333, 335

M・G
 キムの上司である MI5 の重鎮。
 cf. 上 477-480 下 33, 50, 103, 149, 163

ジョージ・F・モナガン
 スコットランド・ヤード警視監。後に副総監。キムや手島と手を結ぶ。
296 下 43, 211, 302, 350-351, 404

シドニー・ジェンキンズ
 スコットランド・ヤード刑事。
 cf. 上 359

ケリー・マッカン
 《伝書鳩》。新聞社社員を装う CIA 職員。
 cf. 上 258-265, 377, 381 下 32, 163

サラ・ウォーカー
 CIA 職員。ケリーの恋人。
 cf. 上 443, 458 下 66

ロナルド・ハンフレー
 CIA 職員。アメリカ大使館参事官。かつてのケリーの恋敵。
 cf. 下 94, 105, 115, 119

ルイス・コクラン
 武器ブローカーを装う誘拐・暗殺のプロ。<!--ケリー暗殺で《6》にわれる。-->
 cf. 下 59

ギリアム
 ???
<!--現在は MI6 長官。ウー・リャンを消した張本人-->
 cf. 上 51 下 310

手島修三
 警視庁外事一課の警視。《アルファ》として《ギリアム》とつながりがある。
 cf. 下 194, 196, 261, 263, 272, 343, 361-362, 369, 407

坂上達彦
 手島の部下の警部。

田中壮一郎
 元アイルランド駐在大使。現在は大学教授。
<!--《リヴィエラ》-->
 cf. 下 36, 53, 243, 373-396

抄録

上 145/284

特別局(警視庁公安部) 逮捕権のない MI5 の代わりに逮捕を行う
SIS(MI6) 海外のスパイ活動を行う
セキュリティ・サービス(MI5) 国民監視/対テロ/スパイ狩りを行う
C1(殺人課) スコットランド・ヤードの部署名
C13(対テロ班) 同上

上 184-185

シーモアは、テロリズムの矛盾を生きてきた男だ。死を再生と言い、不可能を可能と言い、後退を前進と言い続けてきた男が、最近はちらりと、その自分の語法を裏切るようなことを言う。作戦のまずさを指摘するという偽善を、平気でジャックに施す。二律背反をアルコールで溶かし、皮肉で攪拌して、分離しないうちに飲めという。欺瞞と毒気と、少し情も入っているシーモア・カクテルだ。

上 243/267-268

テロリズムの嘘。テロリストであることそのものの嘘。その嘘をつき通すことがテロリズムの大原則だった。それを破ることがすなわち、テロリストの廃業になる。それがジャックの結論だった。-/-

思うに、テロリズムの《嘘》とは、自己矛盾の嘘ではない。個人の罪を歴史の運命で置き換える《嘘》であり、歴史を私物化する《嘘》だ。-/-

下 67-68

死はいつも身近だったし、それが突然訪れることも、どんなにあっさり訪れるものかということも知っていたが、死に慣れたことは一度もなかった。死はいつでも悲しく、無力感に満ち、言葉もわいてこないものであることに、変わりはなかった。呆然自失したケリーの傍らで、機械のように正確に敵の車を射撃したジャックの、初めて見たテロリストの姿にも、言葉はなかった。男には、肉体とは別のところに彼らを呼ぶ声があるとでも言うのだろうか。もしそうなら、自分(リーアンのこと:唯野注)はどうやってジャックを呼べばいいのだろう。

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